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宇都宮地方裁判所 昭和36年(ワ)209号 判決 1961年10月16日

原告 原田ルイ

被告 原田治 外一名

主文

被告等は原告に対して、鹿沼市朝日町一一四二番地宅地三六四坪三合二勺につき、宇都宮地方法務局鹿沼出張所昭和三六年三月一三日受付第八三〇号により抹消された同出張所昭和三三年二月二四日受付第七〇八号所有権移転登記の回復登記手続をしなければならない。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  原告は昭和三二年一一月一一日被告等から同人等所有名義の請求の趣旨記載の土地の贈与を受け、右土地につき宇都宮地方法務局鹿沼出張所昭和三三年二月二四日受付第七〇八号をもつて所有権移転登記を経由した。

(二)  然るにその後被告原田光子は、原告の印鑑を無断で使用し原告名義の委任状、印鑑証明書各一通を偽造し、これを同人が原告から盗取した右土地に関する登記済権利証と共に右所有権移転登記の抹消登記申請書に添付して同出張所に提出し、前記贈与に錯誤がないのにかかわらず、錯誤を原因として同出張所昭和三六年三月一三日受付第八三〇号をもつて、右所有権移転登記の抹消登記を経由するに至つた。

(三)  よつて原告は被告等に対し、何等自己の意思に基ずかないで不法に抹消された右所有権移転登記の回復登記手続をすることを求めるため本訴請求に及んだ次第である。

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告主張の請求原因事実中、原告主張のとおりの各登記がなされていること並びに被告原田光子が原告の印鑑を無断使用して本件抹消登記申請書類を作成行使して登記手続を経由したことは認める。しかしながらそもそも被告等は原告に対し本件土地を贈与したことはない。請求原因第一項の所有権移転登記は、原告が訴外原田六郎と共謀の上、被告等の印鑑を盗用し且つ被告等の名義を冒用した申請書類を偽造行使してなしたものであり、原告は本件土地につき所有権その他何等の権利も有しないから、被告原田光子が請求原因第二項の抹消登記を不正に行つたとしても、原告には抹消された登記の回復登記手続を請求する権利も利益もない。よつて原告の本訴請求は失当である。

理由

原告主張の宅地につき原告主張どおりの所有権移転登記およびその抹消登記が存すること、右抹消登記は被告原田光子が原告の印鑑を無断で使用して作成した登記申請書類に基いてなされたものであることは当事者間に争いがない。

右事実によれば、右抹消登記は登記申請名義人たる原告の意思に基かず偽造の書類によりなされたものであるから、不法のものであることは明らかである。ところが被告等は原告こそ被告原田光子の印鑑を盗用して自己のため所有権移転登記をなしたものであり、本件土地につき何等の権利も有しないものであると主張している。仮りに右被告等の主張どおりとすれば実質上本件土地の所有者は被告等であつて原告ではなく、原告のための所有権移転登記はいつかは抹消せられるべき運命にあるということになる。かゝることになる節には原告の本訴回復登記を許容しない方が登記薄上の記載が実質上の権利関係に一致するという結果になるのみならず、元来実質上無権利者に登記請求権を与えることは不合理であるから、すべからく、実質上の権利関係の有無を審理して後、本訴回復登記請求の許否を決すべきであるとの見解もあるかも知れないが、かくては特別の必要もないのに、法律手続に基かずして自ら救済を獲得することを是認する結果となり、法秩序を乱すから右見解は採用することが出来ない。原告は右抹消登記の行われる前の状態においては兎に角登記簿上の所有名義人であるから、適法な手続によらなくては右名義を失わない権利を有するものというべく、原告に対し、実質上の権利関係の有無の審理を須いず、直ちに、前記不法の登記により抹消された前記所有権移転登記の回復登記請求権を与えるのを相当とする。

よつて原告の本訴請求を理由があると認めて認容し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九三条本文を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎)

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